酒田市 斎場 屋根・外壁

おくりびとに贈る、庄内刺し子をモチーフにした菱葺きの屋根・外壁
施工期間
2016/12/24 〜 2017/11/20
施工種別
板金施工
説明湊町酒田の街を抜け、国道112号線を南に走ることおよそ6km。
浜中の松林の静けさの中に、2018年4月1日より供用開始の酒田市新斎場は位置しています。

斎場とは、お亡くなりになった方々を火葬する施設を指します。
言い換えると『お見送り』をする場所です。

お見送りのために訪れる方々は、故人に対して様々な想いを持っています。
回顧の念、悲しみ、ねぎらい、感謝、それらを胸に、あるいはお互いに分かち合いながら、故人の旅立ちを見守るのです。


そんな『おくりびと』の皆様の想いにふさわしい新斎場を実現すべく携わった工事を、今回の施工事例として紹介いたします。


酒田市斎場の建設に当たり、私たちが担当したのは、屋根と外壁の施工です。
項目としてはスパンドレルの取り付けを始め、諸々あったものの、菱葺き(ひしぶき)と呼ばれる施工が、押しなべて大きなウエイトを占めていました。

菱葺きは、4辺の端が折り曲げられた小さい菱形の鋼板を一枚一枚組み合わせながら取り付ける建築板金の工法のことで、施工面は『ハゼ』と呼ばれる鋼板の端のはめ合い部分が織りなす菱型模様で覆われます。


酒田市斎場の広範囲に亘る菱葺きでは、職人の総合力が試されました。


まず、菱型のパターンにズレを生じさせないための技術精度が必須でした。

・ 鋼板を葺く線を決める墨出しと呼ばれる作業。
・ 鋼板を取り付ける際の位置の微調整・ビス打ち。

上記2点の作業が仮に上手くいかず、菱型鋼板が一つでもズレて取り付けられた場合、それはやがて大きな歪みとして建物全体に行き渡ります。
建築物、ましてや斎場に、パターンの意図しない歪みは許されません。一枚たりとも精度を落とすことなく取り付けることが出来ました。


開口部や隅を均等に納めるための経験値も必要でした。
菱葺きの場合、菱型鋼板の取り付け直後は、明り取りや窓のような開口部に菱の角が飛び出た状態となります。
その角を納めるため、切断や曲げ等の加工を現場で施します。

この特殊な納めの加工は、長く経験を積まないと丁度良い程度が把握できません。
経験が不足していると、不要に切ったり曲げたりして、余計な手間をかけてしまうだけではなく、納めが部位ごとに不揃いになり、建物全体に違和感として現れます。
これを防ぐべく、熟練の職人が陣頭に立ち、後続の職人の納め具合を常に精査しながら作業を進めました。


加えて、施工のスピードも要求されました。
長尺の鋼板で、大きな面積を一度に葺き張りする工法とは違い、菱葺きの場合は小さな鋼板を少しずつ取り付けていく作業になります。
酒田市斎場の場合、取り付けが必要な菱型鋼板の総枚数は、1万1千枚以上に上りました。

漫然と作業を行っていたのでは、到底工期内に終わる作業量ではありません。
一枚一枚の取り付けをいかに無駄なく、効率的に行うかを日々検討しながら施工にあたりました。



こうして出来上がった屋根と外壁は、酒田市斎場に訪れる方々を、最初に出迎える光景になります。

そして、施工を終えた今、私たちが思うことはただ一つです。

「願わくば、その光景が、おくりびとの皆様のお心にそっと寄り添いますように。」