はじめに
スギやヒノキ、ブタクサといった植物が花粉を飛ばすシーズンになると、翌日の天気よりも花粉の飛散量の方が気になるという人がいるくらい、花粉症はつらいものです。
目は痒くなるし、鼻水やくしゃみも止まらない、そしてなんだか目がかゆくてしょうがない、という症状そのものはもちろんですが、それが毎年必ず一定期間やってくるという現実が心に重くのしかかり、精神的にも苦しくなるのが花粉症の嫌なところです。
ん?花粉症になったことがないから分からないですって?
花粉症の苦しみを分かち合えない幸運の持ち主に用はありません。うらやましい。
他方、我が親愛なる花粉症患者の諸兄姉。もしかしたら朗報かもしれません。
花粉を吸着・分解する機能を持った塗料『ハイドロフレッシュ』という製品があります。
今回は、そんな夢のような塗料『ハイドロフレッシュ』を、その花粉吸着分解のメカニズムとともに紹介すると共に、若干疑問が残る部分について言及します。
花粉を吸着分解する塗料、ハイドロフレッシュ
ハイドロフレッシュのブランドロゴ。こだわりが見える。
ハイドロフレッシュの開発を手掛けた関西ペイントは同塗料を、『ハイドロ銀チタン配合水性内装用塗料』と銘打っています。
チタンという言葉が出てきた時点で、化学に詳しい人なら「光触媒が応用された塗料だな」と察しがつくのでしょうが、大多数の人にとってはチタンと光触媒の結びつきどころか、光触媒という言葉自体になじみがないと思います。
関西ペイントは、ハイドロフレッシュを紹介するにあたり、この光触媒という言葉が一般に浸透したと認識しているようでもはやあまり多くを説明していません。怠慢です。
この光触媒という言葉や概念は、メーカーが思っているほど一般にちゃんと認知されていないと思いますので、この記事ではまずは光触媒について、そしてハイドロ銀チタンについて、次にそのハイドロ銀チタンによる花粉の吸着・分解の仕組み、さらにはそのしくみや性能についての素朴な疑問について、それぞれ簡単に説明していこうと思います。
光触媒
光触媒と聞くと、なんだか小難しいもののように感じますが、実際はそこまで複雑な概念ではありません。
光触媒とは、簡単に言うと『光に照らされると、自身は変化せず周りの物質の化学変化を引き起こす物質』です。
光触触媒の代表例は、植物に含まれる葉緑素です。葉緑素は太陽光に照らされることで、周囲の二酸化炭素と水を分解し、デンプンと酸素に組み替えます。
なお、ハイドロフレッシュの光触媒は、光が照射されることにより塗装面に付着した花粉のタンパク質を変質させ、水と二酸化炭素に分解する作用を持っており、これにより屋内に持ち込まれた花粉のすべてとは言わずも、幾分かは無効化できるのではないかと期待されています。
ハイドロ銀チタン®︎
世に出回っている工業製品、生活日用品などに応用されている光触媒は、ほぼすべて酸化チタンです。
酸化チタンは、上記した光触媒性能(光照射による、接触している花粉タンパク質の分解)を持っていますが、限定された波長および量の紫外線照射によってのみ、その性能を発揮することができます。
そのため屋内においては、その性能を最大限に発揮することができず、したがって屋内用の製品に対しての応用例はそこまで多くありませんでした。
そこで登場したのが、他の物質を酸化チタンに混ぜる(ドープする)ことで、より弱い紫外線でも酸化チタンの光触媒を機能させる技術です。
ハイドロフレッシュの場合は、銀およびハイドロキシアパタイトを酸化チタンに銀を混ぜることによりこれを実現していおり、この化合物はハイドロ銀チタン®︎という名称で商標登録されています。
ハイドロ銀チタンによる花粉吸着分解のしくみ
ハイドロフレッシュの製品カタログによると、ハイドロ銀チタン®︎は以下の図のようなメカニズムで花粉を吸着分解するとのことです。
出典: 関西ペイント, 『ハイドロフレッシュ』製品カタログより
仕組みを文章化すると、花粉をハイドロキシアパタイトが吸着し、その吸着した花粉を銀のドープにより発現しやすくなった酸化チタンの光触媒で水と二酸化炭素に分解するといった具合ですね。
ハイドロフレッシュの花粉分解効果
関西ペイントが行った試験では、ハイドロフレッシュを塗装したフィルム試験片を、スギ花粉のアレル物質を溶かした水溶液に入れ、24時間後にアレル物質の残存量を調べたところ99.9%以上減少したという結果が出ています。下図がその内容となります。
出典: 関西ペイント, 『ハイドロフレッシュ』製品カタログより
疑問が残る点
このハイドロフレッシュという塗料のカタログを見た時の一番最初の感想は「花粉分解するならうれしいけど、その効果は体感しにくそうだな」でした。
でも花粉症持ちの身としては、本当に効果が期待できるのであれば同じように花粉症に苦しんでいるお客さんに勧めたいですし、なにより自分で試したいと思ったので、カタログ内にある試験結果や花粉分解のメカニズムなどを舐めまわすように見た結果、いくつか疑問に感じたことがありました。
まず一つ目ですが、一番の売りである『花粉のタンパク質を水と二酸化炭素に分解する』という部分にどうしても納得がいきませんでした。
「でも化学式的にタンパク質が水と二酸化炭素に変化するケースってあるの?」だとか「仮に花粉のタンパク質が水と二酸化炭素に分解されるなら動物のタンパク質にとって有害なのでは?」という疑問だけが残りました。
「でも化学式的にタンパク質が水と二酸化炭素に変化するケースってあるの?」だとか「仮に花粉のタンパク質が水と二酸化炭素に分解されるなら動物のタンパク質にとって有害なのでは?」という疑問だけが残りました。
二つ目の疑問は、試験が花粉そのものではなく、花粉に含まれるアレル物質たるタンパク質を混ぜた水溶液で行われている点についてです。
結果を見れば、なるほどアレル物質は減少しているようです。でも、これではアレル物質が花粉の外殻に覆われていない場合のみの性能評価にしかなっていません。
スギ花粉を例にとれば、そのアレル物質は花粉の外殻の表皮と、花粉の外殻の内側部分にそれぞれあります。仮に、ハイドロ銀チタンの花粉分解機能は、それが直に接しているアレルタンパク質にしか効果がないのであれば、外殻の内側のアレル物質はどうなるのでしょうか。花粉の外殻もタンパク質ならドミノ倒し的に分解していくという理屈は成り立ちますが、外殻は化石として発見されるくらいですからタンパク質ではないように思います。
結果を見れば、なるほどアレル物質は減少しているようです。でも、これではアレル物質が花粉の外殻に覆われていない場合のみの性能評価にしかなっていません。
スギ花粉を例にとれば、そのアレル物質は花粉の外殻の表皮と、花粉の外殻の内側部分にそれぞれあります。仮に、ハイドロ銀チタンの花粉分解機能は、それが直に接しているアレルタンパク質にしか効果がないのであれば、外殻の内側のアレル物質はどうなるのでしょうか。花粉の外殻もタンパク質ならドミノ倒し的に分解していくという理屈は成り立ちますが、外殻は化石として発見されるくらいですからタンパク質ではないように思います。
結論: 一塗装業者としては様子見な製品
内装用塗料としては、関西ペイントの製品ですから問題は無いのでしょうが、花粉を分解する機能を持った塗料という枠での使用については正直ためらいます。そのメカニズムや効力に疑問が残る以上、花粉症の人にとっては気休め程度の効果しかないんじゃないかと感じるからです。
もちろん、花粉を吸着分解する効果が大いに期待できる製品であるのかもしれませんし、もしそれがなんらかの形で証明されれば、真っ先に自室に塗りたいです。
だいたい、発売から一年も経過していない製品です。もしかしたら、少しずつより詳しいメカニズムの解説や、製品の改良が加えられ、花粉分解機能に優れた本当に素晴らしい製品に昇華されるかもしれません。
そのため現状がどうあれ、今後も注目していきたい機能性塗料の一つであることに間違いはありません。
そのため現状がどうあれ、今後も注目していきたい機能性塗料の一つであることに間違いはありません。