はじめに
『屋根塗装』や『外壁塗装』は、決して安い買い物ではありません。だからこそ、塗装工事を検討中の方、その中でも特にネットでものを探したり、購入したりすることに慣れ親しんだ世代の方は、ウェブ上で可能な限り塗装工事についての情報を集めようとすると思います。
そしていつの間にかたどり着いてしまう屋根・外壁塗装のポータルサイト。
『〇〇地域の塗装業者ランキング』、『〇〇で評判のトップ3社匿名見積もり』、『〇〇市で口コミで人気の外壁塗装業者紹介』、『〇〇%の利用者が〇〇万円安くなったと回答しています』、『外壁塗装の悪徳業者に騙されなでください』、『補助金で〇〇万円安くなります』、『建設業資格保持者が運営する信頼できる外壁塗装相談サイト』、『工事完了祝い金として最大〇〇万円のギフト券プレゼント』など、かなり聞こえが良い煽ったうたい文句で自社ポータルサイトにお客さんを誘い込んでいます。
でも、実際のところこれらポータルサイトの多くは地域の優良業者を探す上でも、価格に見合った外壁塗装を依頼する上でも、悪徳業者を回避する上でも、ほぼ全く機能しません。
それどころか、地域の業者目線でみると『謎の業者Xを謎の基準で地域トップの優良業者としてお客さんに紹介し、工事契約成立の暁には成功報酬として決して小さくない中間マージンをふんだくる』かなり強引な商売であるとさえ言えます。
今回の記事では、そのような見方になる理由を、屋根外壁塗装ポータルサイトの仕組みとその利益構造の説明から紐解いていきたいと思います。
お客さん目線で見たポータルサイト利用体験
まず、この屋根外壁塗装ポータルサイトを使用するお客さんがどのような利用体験をするのかという点をざっくりと紹介します。
工事前
工事前の段階において、ポータルサイトはお客さんの住まいの近隣の複数の塗装業者から塗装工事の見積もりを一括で取得するためのツールとして機能します。
利用の流れとしては、まず、お客さんがポータルサイトにアクセスすると、お住まいの地域についての情報や連絡先などの個人情報の入力を求められます。
これらの個人情報を入力した後、その内容を元に複数のポータルサイト登録業者が現場調査に赴き、塗装工事の見積もりが作成されます。
作成された複数社の見積もりは、ポータルサイトの運営元に集められ、最終的には一括してお客さんの手元に届きます。
お客さんから見たポータルサイト利用の流れ(工事前)
工事契約から工事完了まで
工事契約から工事完了に至るまでの間、ポータルサイトが果たす役割は何もありません。
お客さんはポータルサイトが提出した見積もりの中から、工事内容および金額的に最も希望に叶うものを選び、ポータルサイト経由でその見積もりを提出した業者を工事業者として指名し、その業者と『直接』工事契約をします。
その後の作業、例えば塗装工事の開始時期の調整や、工事中の相談・クレーム、追加工事の依頼などは、ポータルサイトを介さず指名した塗装業者と『直接』連絡を取り合い進めていきます。
工事が完了した後、その旨をポータルサイトに連絡し、一連の利用の流れが終わります。
尚、手直しや保証などについても、指名した業者とお客さんの間で『直接』申し合わせが行われ、これについてポータルサイトが関与することはありません。
お客さんから見たポータルサイト利用の流れ(工事契約から工事完了まで)
塗装業者とポータルサイトの関係性
次に塗装業者とポータルサイトの関係性に目を向けてみましょう。
塗装業者は、認定施工業者としてポータルサイトに登録することで、ポータルサイト上で出された見積もり依頼に対しアクションを起こす権利が与えられます。
一方で、ポータルサイトは、認定施工業者を集めることで、サイト経由の見積もり依頼に対応してくれる業者を確保できます。
というのが、塗装業者とポータルサイトの関係性の綺麗な面だけ切り取った説明です。しかし、ここで話が終わってしまっては面白くないので、もう少し踏み込んで、ポータルサイトのマネタイズの仕組みを含め、裏の部分に踏み込んで見て行くことにしましょう。
ポータルサイトは工事契約のマージンで儲ける
ポータルサイトの儲けの仕組みはいくつかの類型がありますが、主流となっているのは「契約工事金額から数パーセントのマージンを取る」というタイプのものです。
ポータルサイトは建設業許可を取得しておらず、いわゆる建設業者ではないので、工事請負が出来ない場合が多いです。まあ、そもそものところポータルサイト側にメリットが無いので、建設業許可を取得していたとしても工事を請け負うことはないでしょうが...。
そのため、塗装工事の契約は業者とお客さんが直接取り交わし、塗装業者が工事請負業者となります。
そしてポータルサイトは、この工事請負契約時の請負費用の全体の内の一定の金額を、マージンとして塗装業者に請求します。
マージンの相場は請負金額の10~15%となっていて、仮に塗装工事全体を100万円で請け負ったとすると、その内10~15万円がポータルサイトに支払われるという計算になります。
ポータルサイトが儲ける仕組み
ポータルサイトは塗装業者を優良認定する
ポータルサイトは、自身に登録されている認定施工業者に対し、『優良業者』や『地域トップ3』という称号を与えて持ち上げます。
「こういった称号を与えるに相応しい施工業者のみ、うちのサイトに登録しています」というアピールをすることで、そのポータルサイト自体のブランディングを図っているのです。
塗装業者はポータルサイトに競争させられる
認定塗装業者とポータルサイトは一対一でつながっているわけではありません。
大抵の場合、お客さんがポータルサイト経由で一括見積もり依頼を出した場合、その情報が複数の認定施工業者に通知されます。
ポータルサイトに登録する業者は、他に安定した仕事の供給元を持たないケースが多いため、できるだけ仕事を切らさないよう、他の認定施工業者と激しい競争をする羽目になります。
競争は工事の提案内容と価格という2点において繰り広げられますが、ポータルサイトが『平均〇〇円安くなる』というように価格低減をアピールして集客しているが故に、安さ重視になりがちです。
ポータルサイトの闇
ここまでは、ポータルサイトを利用するお客さんの利用体験、およびポータルサイトと塗装業者の関係性について説明してきました。
これを踏まえた上で、ここからがいよいよ本題である『ポータルサイトの闇』について切り込んでいきます。
認定施工業者の質が保証されていない
先に述べたように、ポータルサイトは抱えている認定施工業者に『優良業者』、『地域トップ3』などの称号を冠して紹介しています。
しかし、称号付与基準が曖昧、ないしは基準が設定されていたとしても実際にそれが適用されていないケースがほとんどで、基本的にはどんな塗装業者でも、『ポータルサイトに登録すれば即優良企業認定される』のが実態です。
特に地方においてこの傾向は顕著であり、その理由は極めて単純明快です。
ポータルサイトから安定的に顧客を供給してもらわなければやっていけないくらい、地域での実績が足りないか、評判が良くない業者しか集まらないため、優良業者認定の基準をまともに適用すると、工事をしてくれる業者がいなくなるからです。
尚、『適切な価格で適切な施工をする』という意味で優良な塗装業者は、地域内のゼネコンや工務店との関係性の中で仕事を回していける、もしくは自身で直接お客さんから仕事をもらってやっていけるため、お客さんの紹介以外に何もやらず利益をかすめ取るポータルサイトに敢えて頼る必要がありません。
こちらのコラムでは、ポータルサイトの認定施工業者には登録すれば誰でもなれると言っています。誰でもというわけではないと思いますが、基準はかなり緩くしているから、実質無いに等しいのかも。
外部リンク
ポータルサイトの機能とマージン率が釣り合っていない
先述の通り、ポータルサイトが塗装業者に要求するマージンは工事請負金額の10~15%が相場です。
この10%~15%が塗装業者にとってどういう数字かというと、業者によってまちまちではあるものの、大体利益の半分から2/3くらいといったところです。
ただし、ポータルサイトが複数の認定施工業者間で激しい価格競争させていることも鑑みると、この10~15%という数字は利益圧迫どころか赤字に届く率になってきます。
そしてポータルサイトはそのマージンの対価として塗装業者に何をしてくれるのでしょうか。
そうです。何もしません。というより、このマージンは紹介料のような扱いのため、ポータルサイトはすでにその対価としての紹介機能を提供済みという立て付けになります。
話をかみ砕くと、ポータルサイトは認定施工業者にこう言っています。
「 あなたの地域のお客さんから見積もり依頼来たので、すぐに見積もり提出してね。他の業者いるから値引き頑張らないと仕事取れないよ。で、仕事もし取れたら赤字になったとか関係なく請負金額の10~15%の上納忘れないでね。わかってると思うけど、これ紹介手数料みたいなものだから、その後の工事とか保証に関しての諸々はあんたのところで全責任負ってしっかりやってね! うちは関係ないから! それじゃ! 」
もはや、錬金術以外の何物でもないです。
談合と手抜き工事の温床になっている
ポータルサイトがこのようなやり方で事業を拡大していくと、結局のところお客さんが一番の不利益を被ります。
どういうことか説明しましょう。
ポータルサイトに頼らないと仕事が無い。けれどもポータルサイト経由で仕事を取るとマージンと他業者との価格競争で赤字必至。仕事をとればとる程経営が苦しくなっていく。でも生きていくために仕事をしなければならない。
そんな状況に陥った業者が企てるのは『他の認定施工業者との談合による価格調整』か『手抜き工事』と相場が決まっています。
他の認定施工業者との談合による価格調整
談合による価格調整は、そんなに難しいことではないはずです。
同地域内においてポータルサイト経由で見積もりを出した現場を観察していれば、そこに入ってる業者は高い確率で他の認定施工業者だと断定できるため、あとはお互いに懇意になって談合、価格調整が出来ます。
ポータルサイトの取り分を考慮に入れた上で大きく儲けが出るような見積もりを前提に、各社持ち回りで最低価格を出していけばよいだけです。
手抜き工事
価格競争での値引きおよびポータルサイトが要求するマージン分を差し引いた上でも、なお利益を出す手っ取り早い方法は、手抜き工事です。
陰になって見えにくい箇所を塗らない、塗料を規定値以上薄める、塗料のグレードを偽装する、3回塗りをしない、などやり口は様々考えられます。
手抜き工事が発覚した際のリスクが極めて大きいため、軽い気持ちで行う業者はいないでしょうが、経済的に追い詰めらてやってしまうというのはよくある話です。
株式会社フナモコーポレーションさんが、ポータルサイトで競争させられた結果、手抜き工事に走り、それが発覚して潰れた会社について紹介したコラムを書いています。
ポータルサイトがらみの手抜き工事にはこういう事例もあるんですね。
外部リンク
ポータルサイト自体が悪徳業者化している
屋根・外壁塗装のポータルサイトは、情報が少なく価格相場がわかりにくい故に悪徳業者がはびこりやすかった外壁塗装業界に一石を投じたという意味で、社会的意義の極めて大きいサービスです。
ただし、業界全体がウェブでの情報発信に疎い傾向にあるのをいいことに、実態の伴わない誇大なうたい文句で集客すること自体が使命になってしまった結果、悪徳業者の元締めのような存在になりつつあると言えます。
外壁塗装のポータルサイトはうまく機能させれば社会全体にとっていい影響をもたらすサービスなんだから、倫理観を持ってしっかりやってよ、というのが今の筆者の思いです。
お勧めの外壁塗装ポータルの活用法
外壁塗装ポータルサイト経由で見積もり出してきた業者への工事依頼は、慎重になった方が良いです。
しかし、地域内の複数社の見積もりを一括で仕入れることができるというのは手軽かつ利用価値の高いサービスであり、この一点においてはポータルサイトを代替できるものがありません。
お住いの地域における外壁塗装の相場と自宅の施工部の面積等々の情報を仕入れるという目的でポータルサイトを使用し、出てきた内容を頭に入れた上で、地域の顔の見える業者も見積もりを依頼し、その両方をもって最終的に判断するというのが業者選定における賢いやり方だと思います。
本記事は以上となります。
長文にお付き合いくださり、ありがとうございました。