塩ビの雨樋を塗装すべきでない4つの理由

塩ビの雨樋を塗装すべきでない4つの理由

外壁や屋根の塗装とセットで見積もられることが多い雨樋の塗装ですが、材質が塩ビの場合はやめておいた方が良いです。理由は多々ありますが、中でも特に知っておいていただきたい項目を4つ抜き出し紹介していきます。

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この記事の目次

はじめに

どこかの業者が街中で塗装をしているのを見かけると、同業者として何をどんな風に塗っているんだろうと気になって仕方がありません。そのため、気づかれないように横目で観察する習性があるのですが、その際に塩ビの雨樋を塗装していたりすると、悪い意味で心がざわつきます。
なぜかって?
それは、塩ビの雨樋の塗装は良い結果にはならないことが多いからです。

塩ビの雨樋を塗装すべきでない4つの理由

塩ビの雨樋を塗装すべきでない理由は様々ありますが、とりわけクリティカルだと感じるのは以下の4点です。

塩ビへの塗装は長持ちしない

塩ビの雨樋に対して行う塗装は持ちが悪いです。塗装のプロがしっかりと下処理を行い、慎重に塗装をしたとしても数年と待たずに塗膜にひびが入り剥がれ落ちてくるケースが多々あります。
では、なぜ塩ビの雨樋上に形成された塗膜はすぐにひび割れたりはがれたりしてしまうのでしょうか。
その答えは、塩ビの線膨張係数(せんぼうちょうけいすう)の高さにあります。Wikipediaでは、線膨張係数を以下のように定義しています。
温度の上昇によって物体の長さ・体積が膨張(熱膨張)する割合を、温度当たりで示したものである。
出典:Wikipedia
線膨張係数が高ければ高いほど、その対象の伸縮・膨張の度合いが大きくなります。下の図をご覧いただくと分かると思いますが、例えば金属などの他の素材と比較してみた場合、樹脂一般の線膨張係数は非常に高くなっています。さらに言えば、樹脂の中でも塩化ビニールの線膨張係数は高い部類に入ります。
湯本電機株式会社(https://www.yumoto.jp/)のオンライン計算ツールを使用し弊社で作成
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このように、塩ビは高い線膨張係数を備えているため、寒暖の差によって大きく伸縮します。その大きな伸縮に塗膜が追従できないことで、結果としてひび割れや剥がれが発生しやすいのです。

塩ビ雨樋は屋根や外壁よりも劣化が早い

塩ビ雨樋の耐用年数をネットで検索すると、『20年程度』と記載しているサイトが多くあります。けれども実際のところ、塩ビ雨樋が20年間何事もなく持つのは稀です。多くのメーカーが出している塩ビの雨樋の保証は『変色差5年』、『水漏れ5年』となっていて、かつあれやこれやと数多くの免責事項を指定しているところを見ると、その現実的な耐用年数は十数年程度と見て間違いないでしょう。
保証の内の『変色差5年』という項目にもう少し踏み込んで考察してみましょう。この保証はつまるところ5年以内に部分的な色あせが生じてきた場合に、(免責事項をクリアしている場合に限り)無償で交換するという内容なのですが、逆に言えば5年経過後は塩ビ雨樋が変色して然るべきということを暗に示しています。
塩ビの雨樋は多くの場合、下の図のように二重の層で構成されています。二重の層の内、内側は厚めに分量がとられた塩ビであり、これにより雨樋の形状が維持されることになります。外側に薄く取られた層は耐候性を高めるための特殊樹脂コーティングであり、色つやが内側の塩ビよりも鮮やかです。
塩ビ雨樋の2層構造のイメージ図
塩ビ雨樋の2層構造のイメージ図
雨樋の変色もとい色あせは、この外側のコーティングが劣化もしくは消失することで発生します。塩ビ雨樋の塗装は、本来このコーティングを再生する目的で行われるべきですが、その場合3年ほどで再塗装をすることが望ましいです。屋根や外壁が一般的な再塗装推奨サイクルは10年強であることを考えるとかなり短い期間での再塗装になってしまいます。
そして、実際には塩ビ雨樋の塗装は屋根や外壁の塗装とセットで検討されがちです。そういったタイミングでの塗装は、コーティングが消失し、塩ビ雨樋の形状形成層にダメージが蓄積された状態で行われるため、その本質的な恩恵が得にくいです。

部材の劣化を見逃しがち

塩ビの雨樋は、構成部材が多岐に渡り、それぞれがプラモデルのように組み合わさって一つの系列を成しています。そのため、下の図のように、問題が発生する箇所が他の外装部材よりも多く、一見正常に見えても、継ぎ手や、エルボ、集水器の破損、接着剤や軒樋を固定する針金の断裂、そして支持金具、支持バンドの異常湾曲や断裂など、隠れた問題が発生している可能性が非常に高いです。
塩ビ雨樋の主な構成部材とその劣化内容
塩ビ雨樋の主な構成部材とその劣化内容
そして、塩ビ雨樋のそんな性質ゆえに、問題が往々にして見落とされたまま塗装されることが多いです。
本来であれば、すべての問題を解決してから塩ビ雨樋の塗装に踏み切るべきですが、現実問題として、すべての問題を看破し対処をしようとすると、それだけで工事費用がかなり上がってしまうことになります。そのため、いっそ端から雨樋の交換してしまう方が合理的であると言えます。

塩ビ雨樋への塗装は費用が割高

塩ビ雨樋の塗装費用は、それを交換する場合にかかる費用よりも格段に安いです。塩ビ雨樋を交換する際にかかる費用は、すごく乱暴に言えば通常の住宅で20~30万円程度です。対して、塗装した場合にかかる費用はその三分の一程度です。
しかし、これはあくまで単発での工事にかかる費用で、塩ビ雨樋を常に塗装により綺麗な状態にしておきたいと考えた場合は、少なくとも3年に一度は塗装のやり直しが必要になることを考えると、10年スパンで考えた場合、圧倒的に交換の方が安く収まります。
雨樋塗装と交換のランニングコスト比較
雨樋塗装と交換のランニングコスト比較
上記の図は、塩ビの雨樋を塗装によりメンテナンスする場合と交換によりメンテナンスする場合のそれぞれにかかる10年スパンのランニングコストを図解したものです。ざっくりですが、塗装工事を3年スパンで行えば、塗装費用単体でみると、10年スパンでみても雨樋を交換するより安く収まっていますが、そのたびに足場の費用が掛かることを考えると、雨樋を交換するよりも1.5倍程度ランニングコストが高くなっています。

したがって、長期的に見れば、雨樋を塗装によりメンテナンスすることによるコスト的な優位性は無いと考えて良いと思います。

それでも塩ビの雨樋が塗られる理由

請負業者に知識がないから

塗装の専門業者や、ハウスメーカー、リフォーム会社の経験豊富な営業担当は塩ビ雨樋の塗装がクレームにつながりやすいことを知っています。そのため、彼らが塩ビ雨樋の塗装をお客さんに勧めるケースは少ないはずです。頼まれた際にのみ、雨樋塗装のコストパフォーマンスの悪さを説明し、納得してもらった上であれば塗装をするというスタンスを取る場合が多いと思います。
しかし、経験が浅い営業担当が、いつの間にかお客さんに塩ビの雨樋塗装を提案していたりすることがあり、塩ビの雨樋の塗装はやめた方が良いと思っている下請けの塗装専門業としても、元請け業者との今後の関係を犠牲にしてまで、その施工内容の変更を強要する判断はできないでしょう。
その結果、だれも幸せにならない塩ビの雨樋塗装が行われることになります。

全体の工事価格を少なく見せたいから

例えば外壁の塗装工事とセットで塩ビの雨樋を補修したいというお客さんがいるとします。先に述べましたが、塩ビ雨樋を全交換する場合、すごく乱暴に言えば一般的な住宅で20~30万円程度の費用相場となっています。一方、これを塗装で済ませる場合、その約三分の一程度の価格で工事が可能です。
一般的な住宅の塗装は足場込みで100万円前後ということを鑑みると、そこに雨樋を全交換した場合の費用を上乗せするのと、塗装した場合の費用を上乗せするのとでは、価格の『見栄え』がかなり違ってくることはご理解いただけると思います。
そして、営業をかける業者にとって商売の本丸は外壁塗装であるため、塩ビ雨樋の交換で見積もりを出し、工事価格全体が高額に見えてしまうことで、商機を失うことを恐れて、塩ビ雨樋の補修を塗装で見積もるわけです。

一時的な美観回復を重要視するから

例えばアパートのような賃貸物件の美観を、引っ越しシーズンだけでも美しく見せたいという目的から、塩ビの雨樋も交換ではなく塗装で済まそうという判断があったりします。塩ビ雨樋の塗装の持ちの悪さを理解した上で、物件の所有者が決めたことであれば、そこに口を挟むつもりは毛頭ありません。
ただし、中古住宅を買い取って、リフォームの後再販をするという仕組みで商いをしている業者が、塗装業者に塩ビの雨樋塗装をさせているのを見ると、業界の闇を感じてしまいます。瞬間的に綺麗さを演出し、お客さんの目を誤魔化して売り抜ける気まんまんです。これはリフォーム業界全体の悪評につながるので、是非ご遠慮いただきたいと常日頃から思っている次第です。

最後に

今回は、塩ビの雨樋のメンテナンスは塗装で対応するべきではないという主張と、その理由4つをつらつらと書き連ねました。
本件については、塗装業者やその関係者に様々な異なる意見を持った方がいらっしゃるかもしれません。これはあくまで弊社としての見解を書いたに過ぎないので、盲目的にすべてを指針にする必要はないと思います。
でも、最後にもう一度だけ言わせてください…。
塩ビの雨樋塗装はやめた方が無難ですよ!