はじめに
屋根面の構成に用いられる材料は、瓦やスレート、アスファルトシングルなど含め様々ありますが、今回の記事で扱うのは、いわゆる金属屋根です。
業界外の方たちはよく金属屋根(銅板屋根を除く)を総称して『トタン屋根』と呼びますが、その呼称は不正確です。『トタン』とは『亜鉛メッキ鋼板』を指す言葉で、現状としてこのトタンが金属屋根の面材として使用されることはほぼありません。
2020年現在、私たち建築板金業者が金属屋根の施工に用いる材料の主流は、ガルバリウム鋼板もしくはその上位互換であるスーパーガルバリウム鋼板(以下、ガルバリウム鋼板で記載統一)です。
本記事では、このガルバリウム鋼板を用いた金属屋根の葺き方の内、横葺きと呼ばれるものに焦点を当て、その中でも代表的な葺き方についてそれぞれのメリットとデメリットを紹介していきます。
それではさっそく見て行きましょう。
横葺き
横葺きはその名の通り、鋼板の長手を地面と平行にして横方向に葺いていく工法です。ハゼ組み(屋根材同士の取り合い)により横に縞模様が形成されるのが見た目における特徴です。
横葺きは、最古の記録として残る西暦765年建立の西大寺の屋根への適用を踏まえて考えると、千年をゆうに超える期間に渡り日本人に親しまれてきたスーパーロングヒット工法です。
そして、横葺きはその長い歴史の中で、いつくかの工法へと枝分かれしてきました。中でも代表的なものを以下に紹介します。
長尺横葺き
長尺横葺きの屋根
長尺横葺きは、屋根の端から端までをカバー長い尺の鋼板を段にして垂直に積んでいく工法です。屋根面に表出するのは軒先に平行な線のみとなるため、比較的見た目がシンプルですっきりした印象の仕上がりになります。
長尺横葺きのメリット
長尺横葺きの場合は、あらかじめビタリの寸法で屋根材を発注することになるため、基本的には材料のロスがほぼ出ず、したがって材料に関して言えば無駄な費用が発生しにくいです。
他の横葺き工法よりも材料と材料の継ぎ目が少なくなるため、その分漏水が発生しにくいメリットもあります。
長尺横葺きのデメリット
屋根幅が15m程度になると、クレーンによる荷揚げ作業が必要になり、その分の費用が発生します。
また、その荷揚げ自体も、建物が密集する区域においては、電線を躱せないまたはクレーンの配置場所が確保できないという問題が発生しがちのため、建物の立地によっては施工ができないケースも考えられます。
長物かつ薄物の鋼板に対して、比較的少ない折り加工が施されるタイプの屋根工法になるため、夏冬や昼夜間の気温差による膨張収縮での歪みには警戒する必要があります。尚、歪みが発生すると、そこから水が浸入し漏水することになります。
定尺横葺き
定尺横葺きの屋根
定尺横葺きは、比較的短い長さの鋼板を継いで屋根の端から端まで横葺きしていく工法となります。基本的には屋根材をある段から次の段へと切りまわし継いで行くため継ぎ目の位置に規則性はありません。ただし、継ぎ目部分はあまり目立たないので、長尺横葺きと見た目に大きな差はありません。
定尺横葺きのメリット
材料を切り回して使う工法なので、必然的に材料ロスが少なくなり、その分施工単価もお手頃になります。
加えて、長尺横葺きに比べ、材料が短いため取り回しが良く、建物が密集しているような立地条件においても施工が可能です。
また、少人数で施工ができるため、業者にとってはスケジューリングがしやすく、翻っては工事開始まで長く待たされる心配がなくなります。
定尺横葺きのデメリット
注目しなければ気づきませんし、気づいたところで醜さがあるわけではありませんが、横葺きの横線に加えて、隣接する鋼板と鋼板の間の継ぎ目が垂直な線としてところどころに表出するため、気になる人は気になるかもしれません。
また、つなぎ合わせた部分からの雨漏りリスクがあるため、腕の良い職人による施工が必須の条件となる点も付け加えておきます。
一文字葺き
一文字葺きの屋根
定尺横葺きの鋼板と鋼板の継ぎ目の位置に規則性を持たせた工法で、通常は上下の段で千鳥配置になるように鋼板が設えられます。寺社仏閣の屋根を銅板で仕上げる際によく用いられますが、一般の住宅でも門の屋根等のこだわりを見せたい部分に用いられます。
一文字葺きのメリット
一文字葺きを用いることで、和風建築の粋をさりげなく表現できます。特筆すべきメリットはこれだけですが、手練れの職人が手掛ける一文字葺きは、計算しつくされた精密さに裏付けされた迫力のようなものが感じられる仕上がりとなります。
一文字葺きのデメリット
定尺横葺きと同様、鋼板と鋼板の間に軒先垂直方向の継ぎ目が入るため、そこから雨漏りするリスクがあります。
また、工法的に屋根材の切り回しが出来ないため材料ロスが多くなると共に、材料の下準備や割り付け等に手練れの職人が多くの時間を割く必要があるため、通常の定尺横葺きよりも施工単価がかなり割高になります。
段葺き
段葺き用製品例:ニチハ『横暖ルーフ』©ニチハ
段葺きは、これまでに紹介した横葺きの各段の端部に立ち上がりをつけ、上下の段の高低差をより大きくする工法です。段葺きで設えた屋根は見た目上、平瓦やコロニアル屋根のように立体的になります。
段葺きのメリット
屋根の各段の立ち上がりが水切れをよくするため、雨漏りが発生しづらくなります。
また、中には断熱材が充填されている段葺き用の製品を出しているメーカーもあり、そういった製品を使用する場合は断熱効果および雨が金属屋根にぶつかり響き渡る音を遮る効果が期待できます。
段葺きのデメリット
段葺き屋根を施工するには、各メーカーが出している断熱材入りの段葺き用屋根材を使用するか、立ち上がり部分に高低差を出すため金具を差し入れる必要があり、いずれの場合でも材料費および工賃が長定尺横葺きとくらべて割高になります。
すべての横葺き工法に共通したメリットとデメリット
横葺き工法共通のメリット
横葺きのメリットは、やり方次第でデザインが柔軟に変えられる点にあります。
例えば、鋼板一段分の縦幅を小さく取れば、横にボーダーが細かく入った躍動感のある屋根面を表現できますし、逆に大きく取れば平べったい印象の屋根を表現できます。
また、軒先に対して平行な線のみではなく、一文字葺きのように鋼板継ぎ目の垂直線を千鳥配置にしシメトリーを強調したり、それを少しずつずらして遊びの感じられる印象を際立たせたり、複数色の鋼板を継ぎ足してテラコッタ調に見せたり、段葺きにしてコロニアルのように見せたりなど、様々な応用が考えられます。
例えば縦葺きや折板のような他の工法では、ここまでデザインに柔軟性を持たせられません。
横葺き工法共通のデメリット
横葺き工法共通のデメリットは、雨漏りリスクが高い点にあります。
横葺き屋根は、その名の通り、細長く切り出した鋼板を平行にかつ段をつけて葺いていく工法です。上の段と下の段は、ハゼと呼ばれる嵌め合わせによって実現されているため、材料としては縁が切られて分離した状態にあり、そこに隙間が必ず発生します。
そのため、その隙間から水が浸入するケースが多く、そいういった点から縦葺きや折版よりも雨漏りの被害に会いやすいです。
そのため、横葺きは雨水が滞留しにくい勾配、具体的には3寸5分勾配以上の屋根にのみ用いるべき工法です。
ただし、軒先に滞留した雪によって、ダムのように堰き止められ逃げ場を失った雪解けの水が、段のハゼの隙間から屋根の内側に侵入して起こる『すが漏れ』と呼ばれる雨漏りや、雪の重みで潰され小さくなった上下段の隙間に雨水が吸引されるように滞留する『毛細管現象』による雨漏りなど、雪にまつわる雨漏りが発生しやすいのが、この横葺きという工法であるため、3寸5分以上の勾配がある屋根であったとしても、積雪が多い地域の場合は横葺きの使用に注意を払う必要があります。
毛細管現象による雨漏りのイメージ
最後に
本記事では、横葺きという工法について、そして一見同じに見える横葺きでも実は様々な種類があり、それぞれにメリットやデメリットがある点について説明させていただきました。
一つ一つの工法についてもう少し詳しい解説が出来ればよかったのですが、そうすると読むに堪えない非常に長ったらしい記事が出来上がるため、できるだけ簡潔に分かりやすくまとめました(そのつもりです)。
この記事が、横葺きで新築や増築、リフォームや屋根修理をお考えの方にとって少しでも有益であればうれしいです。
最後までお付き合いいただきありがとうございました!
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この記事では、金属屋根の葺き方の内、縦葺きを主眼に据えて、その中でも主流とされているいくつかの工法のメリットおよびデメリットを説明いたします。増築や新築、リフォームでの屋根選びの際に参考にしていただければ嬉しいです。
この記事を読んで縦葺き工法のメリットとデメリットが気になった方はこちらの記事も是非ご覧ください。