縦葺き屋根の種類ごとのメリットとデメリットの解説

縦葺き屋根の種類ごとのメリットとデメリットの解説

この記事では、金属屋根の葺き方の内、縦葺きを主眼に据えて、その中でも主流とされているいくつかの工法のメリットおよびデメリットを説明いたします。増築や新築、リフォームでの屋根選びの際に参考にしていただければ嬉しいです。

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この記事の目次

はじめに

一口に屋根と言っても、コロニアルや瓦屋根等、素材や形状においてたくさんのバラエティーがあります。
本記事では、金属屋根を主眼に据え、特にその中でも近年で一番の進化を遂げてきたと考えられる『縦葺き』について、その種類ごとのメリット、デメリットを紹介していきます。
尚、本記事で扱う縦葺きの種類はガルバリウムを使用して施工を行うものに限定します。ステンレスや銅板といった素材を使用した工法はまた別の機会に紹介いたします。

縦葺き

『縦葺き』とは、一枚の鋼板を屋根の頂上から先端に向けて並べて葺いていく工法を指します。
鋼板一枚一枚の間のつなぎ目(ハゼ)が地面に対して垂直に並び、これによって縦じまが形成されるのが見た目上の特徴です。
縦葺きは意外と新しい工法で、1953年(昭和28年)に広島県福山市盈進学校の校舎と旭小学校体育館の屋根を葺く際に初めて用いられました。
時代は移り替わり2020年(令和2年)になった今、縦葺きは金属屋根葺きの工法として確立されると共に、いくつかの派生工法に分化しています。以下では、その内でも特に代表的なものをメリット・デメリットと共に見て行きましょう。

瓦棒葺き

瓦棒葺きの画像
瓦棒葺きの画像
瓦棒葺きは、昭和の後半くらいまで縦葺き屋根の主流と言える工法でした。現在でも、街を歩けば瓦棒葺きの屋根を目にすることは珍しくありませんが、新築時の屋根葺き工法としてはあまり採用されなくなりました。
太く力強い縦線が、455mm(一尺五寸)か363mm(一尺二寸)の間隔で入っているのが見た目上の特徴です。この太い縦線は、隣接する屋根面材との継ぎ目部分で、ハゼと呼ばれています。
尚、横葺きで瓦のイメージを出すため、屋根の流れと平行に取り付けた角材に定尺切りした鋼板を取り付ける『垂木入り瓦棒葺き』という工法が縦葺き流行以前に存在しており、それがそのまま縦葺きの『瓦棒葺き』という名称の由来になったようです。
(縦葺きの)瓦棒葺きが世に出た当初は、このハゼ部分に心木(しんぎ)と呼ばれる木下地を入れて、そこに屋根材を固定するという葺き方でした。
しかし、この心木の側面に屋根面材を釘打ちして固定していたため、そこから雨水が浸入し心木が腐食、折損しがちで、強風時にその折損部を起点に屋根全体がめくれ上がるという現象が多く発生しました。
そこで登場したのが、心木なし瓦棒葺きであり、屋根面材と屋根下地に固定した吊子(つりこ)と呼ばれる同質の金属材を、一緒に掴み込むことで、心木無しかつ屋根の表面にビスなどで穴を開けない屋根の崩壊の危険性の少ない工法として心木あり瓦棒葺きにとって代わり世に広まりました。
瓦棒葺きのハゼ断面図
瓦棒葺きのハゼ断面図
現存している瓦棒葺きのほとんどは心木無し瓦棒葺きであるため、以降瓦棒葺きという言葉が出てきたら、心木無し瓦棒葺きを指していると思っていただいて結構です。
・瓦棒葺きのメリット
瓦棒葺きの一つ目のメリットは、屋根面材がゆがみにくい点です。
気温の変化により屋根材である金属は膨張したり収縮したりし、その際に設えた当時の屋根寸法との食い違いが生じ、結果として屋根面が歪んでしまうことがあります。
しかし瓦棒葺きの場合はハゼ部分で屋根面材同士の縁が大きく切れているので、お互いに膨張の余剰分を押し付けあったり、逆に収縮の不足分を引っ張りあったりという現象が起きにくいです。
二つ目のメリットは、補修のしやすさにあります。
瓦棒葺きは、ハゼの上部に乗せるキャップで継ぎ目が表現されています。したがって、例えば飛来物により瓦棒葺き屋根の一枚に穴が開いたとしても、キャップを外せばその一枚と両脇の二枚の計三枚の屋根面材を交換すれば補修が終わります。
・瓦棒葺きのデメリット
瓦棒葺きのデメリットは、他の縦葺き工法に比べて雨の滞留を引き起こしやすい点にあります。
吊子と屋根面材、キャップの3部品を掴み込んで構築されていて、比較的丈夫ではあるハゼ部分ですが、そうは言っても内部は空洞になっています。
したがって、雪などの重みでつぶれて、一部分がへこんでしまい、そこに雨水が滞留し、最終的にはサビて穴が開くということが良くあります。

防水立平葺き

防水立平葺きの画像
防水立平葺きの画像
防水立平葺きは、瓦棒葺きにとって代わり現代の主流となっている縦葺き工法です。
見た目上は、屋根の流れ方向に比較的細い線が一定間隔で並列した、簡単に言ってしまえば瓦棒の線が細いバージョンのような屋根になります。
屋根面材同士のつなぎ目であるハゼ部の構造は、設計思想的に心木無し瓦棒と似ています。
具体的には、垂木に吊子を固定し、その固定した吊子と屋根面材の端部を一緒に掴み込んで一体とする工程によりハゼ部が作られています。
尚、防水立平葺きの前身となった工法は『立平葺き』です。
その名の通り、防水立平葺きと立平葺きの違いは防水のための工夫の有り無しです。そして、その防水の工夫がハゼ部への防水材の仕込みです。
立平葺きと防水立平葺きのハゼ断面図
立平葺きと防水立平葺きのハゼ断面図
この防水材によりハゼ内部への水の侵入が抑制され、雨漏りリスクの少ない優秀な屋根工法としての防水立平葺きが実現されています。
・防水立平葺きのメリット
防水立平葺きは、雨漏りのリスクが横葺きよりも少ないといわれている縦葺き工法全体の中でも、特に雨漏りのリスクが低い工法だと言えます。
雨漏りリスクが非常に低い理由は、水の滞留する要因がほぼ無いことです。ハゼ部はすべて突端となっていて、水が止まれる面積がありませんし、ハゼの内部には防水材が仕込まれているため毛細管現象により水が吸い込まれる心配がありません。
もう一つのメリットは、ハゼ部自体が瓦棒などの他の縦葺きに比べ目立ちにくい点にあります。
瓦棒のハゼは太いため、屋根面上で大きな存在感を発揮するため野暮ったいと感じる人が多いのですが、防水立平葺きの場合は、ハゼが細くそこまで存在感を主張しません。
・防水立平葺きのデメリット
防水立平葺きのデメリットは、屋根の面材一枚一枚の交換が難しい点にあります。
防水立平葺きは、屋根面材と吊子そして隣接する屋根面材をすべて一緒に掴み込むことでハゼを構築しています。そのため、屋根面材一枚分の穴に対する補修の場合でも、元通りの綺麗な状態に戻すためには屋根全体を交換する必要があります。

縦葺きに共通したメリットとデメリット

縦葺きに共通したメリット

すべての縦葺きに共通したメリットは、雨漏りリスクが少ないということです。
縦葺きは、基本的に屋根の頂点から軒先まで一枚の鋼板で設える工法です。したがって、その流れ方向につなぎ目が発生することはありません。
そのため、勾配の緩やかな屋根でも使用できますし、もっと言ってしまえば勾配の緩やかな屋根を葺く場合は金属屋根の縦葺き一択というのが屋根業者の共通認識です。
また、横葺きよりは縦葺きの方が、一枚の鋼板で葺く範囲が大きい傾向にあるため、施工の決着が早いです。そのため、若干ではありますが縦葺きの方が施工単価を安く納められます。(もちろん、施工する対象の置かれている環境や、実際に用いる工法にもよりますので、一概には言えませんが。)

縦葺きに共通したデメリット

縦葺きの一つ目のデメリットは、そのデザインが画一的になりがちという点です。
縦葺きは、既に多くの試行錯誤の結果が反映された優秀な工法ですので、特に見た目において皆同じような見た目になります。一方で、横葺きであれば、デザイン上のバリエーションがあり、お客さんや屋根業者の工夫や趣向が反映されやすいです。
もう一つ、敢えて縦葺きのデメリットを挙げるとすれば、それは得てして屋根上げが大掛かりになりがちという点です。屋根上げが大掛かりになればなるほど、当然ながら費用も上がります。
屋根材を、屋根に設えるためには、当然ながら材料を屋根の上に上げる必要があります。縦葺きの場合、屋根材の長さは、屋根の流れ方向の長さとイコールになります。そして、近年片流れの屋根が流行っていることも手伝い、屋根の流れ方向の長さも長いものが多くなっています。
屋根の流れ方向が10メートルより長かったり、建物の背が高かったりすると、人の手で屋根材を上げることは困難です。屋根材が折れたり凹んだりしやすくなるためです。
そのため重機を持ち出すのですが、そうすると重機配置の検討、電線への配慮、場合によっては道路の使用許可の取得、大勢の職人の出動が必要になります。お祭りです。

最後に

本記事では、金属屋根の縦葺きに注目し、いくつかの工法を紹介するとともに各々のメリットやデメリットについて説明しました。
この記事が、縦葺きで新築や増改築、リフォームや屋根修理をお考えの方にとって有益であれば喜ばしいです。

最後までお付き合いいただきありがとうございました!

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