はじめに
ご自身の所有する建物を長期にわたり維持する上で、一番に気を付けなければならないのはやはり外装周りのメンテナンスです。
どれだけ内装を素敵かつ高機能にしても、外装が脆弱であればそこから雨風が吹き込み建物の躯体を蝕むことになるからです。
外装の中でもとりわけ気にかけるべきは屋根、外壁、雨樋ですが、今回の記事では屋根を主眼に据えて、どのような条件の建物が屋根のメンテナンスがやりやすく、したがって屋根の健康ひいては建物の健康を良好に保ちやすいかを説明していきます。
メンテナンスコスパの良い屋根の条件
建物の背が低いこと
与えられた敷地面積によっては、必要とする居住スペース確保のために2階建て、3階建ての建物を建てなければならない場合も多くあると思いますが、屋根のメンテナンスという観点で考えると、建物の背は低ければ低いほど有利です。
まず、背が低い建物の屋根を施工する場合、足場費用が格段に安くなります。背の高い建物にくらべ背の低い建物に対する足場の架け面積が小さくなりやすいことは簡単に想像できると思いますが、これに加えて建物が一定以上(15m以上の場合が多い)の高さになると発生する高所作業費用という別料金の発生も未然に防ぐことができます。
また、屋根材を地上から屋根上に重機でつるし上げたり手作業で運ぶ手間が減り、何より職人の足場昇降の時間が少なくなるため、背の高い建物の工事よりも格段に作業の効率が上がります。当然ながら、これは工事全体の費用に低減に寄与するため、お客さんの懐から出ていくお金もより少なくなります。
屋根が急勾配でないこと
屋根の勾配の緩急も、工事価格に少なくない影響を与えます。
急な勾配の屋根上での作業は、踏ん張りがきかなくなるため、屋根塗装にしろ、屋根の葺き替えにしろ、想像以上に大変です。
工事をスムーズに進めるために、急勾配の屋根の上に『屋根足場』と呼ばれる専用の足場を組む必要が出てくることになり、その場合足場費用がかなり割高になってしまいます。
そして、いくら屋根足場をかけて転落の危険を排除したとしても、滑りやすい材質で出来ている場合が多い瓦屋根や金属屋根の上では、職人が転倒するリスクが依然として高いままとなります。そのため、作業そのものよりも如何に屋根から滑り落ちないかに気を取られることになり、その帰結として工事の質・効率共に悪くなりがちです。
下図で言うところの4寸勾配(水平方向10寸に対して屋根の高さが4寸上がる勾配)までは、屋根業者であればそこまで苦労もなく施工ができる屋根傾斜ですが、それ以上となってくると施工効率が悪くなります。
そして6寸勾配以上の屋根を施工する際には、状況にもよりますが屋根足場をかける必要が出てくるでしょう。
屋根勾配のイメージ
下屋や2段構造の屋根が無いこと
下屋というのは、おも屋の外壁から突き出るようにして取り付けられた屋根のことです。下屋をつけることにより、雨よけになったり、建物の構えに高級感が演出できたりします。
この記事では2段構造の屋根を、『1階の屋根と2階の屋根がそれぞれ独立して取り付けられた屋根』と定義します。建物の一部が2階建てで、1階の床面積の方が大きい建物の場合に、この2段構造の屋根が設えられます。
下屋でも2段構造の屋根でも、立地条件や利便性、そして意匠を考慮した上で建造されている場合が多いため、一概に"悪いもの"と断じるわけにはいきません。しかし、屋根のメンテナンスという一点においては、屋根や2段構造の屋根は障害になる場合が多いことは確かです。
その理由は、下屋や2段屋根の1段目の葺き替えを行う際に、外壁に対する施工も必要になってくるということです。
通常、屋根と外壁がぶつかる場合、その屋根材の端は外壁の裏に立ち上がっています。これは、その立ち上がりによって、水が内部へ吹き込むことを防止するための仕組みです。下図は、金属屋根が外壁に絡むとき、立ち上がりがあった場合と無い場合の雨水の侵入の度合いの違いを簡単にイメージ化したものです。
外壁の裏への屋根立ち上がりが持つ意味
このように、下屋であれ2段屋根であれ、それが外壁とぶつかる場合には、屋根材もしくはその役物が外壁の裏側に立ち上がり水の侵入を防いでいます。
これにより外壁にぶつかる屋根部分を部分的もしくは全体的に直したい場合には、一度外壁を取り外して、新しい屋根自体もしくは関連の役物を外壁の裏側に立ち上げた上で再度外壁を納めなおす必要が出てきます。そしてそれは同時に、屋根補修の費用が高くなるということを意味します。
片流れであること
屋根の形状にはいくつかの種類がありますが、その中でも一番メンテナンスしやすいのは片流れ屋根です。
屋根の形は、これからご紹介する7つの代表的な屋根形状の組み合わせである場合がほとんどです。それぞれの形状ごとのメリット、デメリットも合わせて説明いたしますので、ご参考までにご覧ください。
片流れ屋根についてはこの記事で簡単な解説をしています。
そもそも、片流れ屋根は雨水が刺さりやすい部位がほぼ無い、弱点の少ない屋根です。そして、ことメンテナンスという観点で考えるに、『棟(むね)』が無いというのが、大きな利点となります。
棟とは、屋根の面と面が交わる辺を指していて、下図のように切妻屋根や方形屋根をはじめ他の形の屋根には必ずこれがあります。
棟の位置
屋根の雨漏りは多くの場合この棟に起因していて、金属屋根の場合釘が浮いたり、瓦屋根の場合だと詰められているモルタルが崩れ落ちたりなどして、その隙間から水が浸入します。
そして、問題が生じやすいが故に、頻繁に修理される対象でもあり、その厄介な部位が無い片流れ屋根は、必然的に他の屋根に比べてメンテナンスの回数が少なくなります。
屋根のメンテナンスコスパ良い建物の具体像
これまで紹介した、メンテナンスコスパの良い屋根の条件を、具体的な建物として落として込んでいくと、下記のようなものになります。
下屋無しで緩い屋根勾配の片流れ屋根の平屋
屋根のメンテナンスコスパ良い建物の具体像
もう少し付け加えるとすれば、緩い屋根勾配である場合、屋根材は金属系縦葺きに限定されるため、雨漏り耐性を考慮して、防水立平葺きを採用するのが良いかと思います。
金属屋根の葺き方の内、縦葺きを主眼に据えて、その中でも主流とされているいくつかの工法のメリットおよびデメリットを説明いたします。
この記事に防水立平葺きについて説明している部分があります。
最後に
この記事では、メンテナンスコスパの良い屋根の条件と、その条件を踏まえた上での理想的な建物像を紹介してきました。
ただ、現実には地域ごとの気候条件や立地条件、並びに経済状況や意匠の好みなどの様々な理由から、今回取り上げたような屋根のメンテナンスコスパ重視の建てることが、現実的でないケースも多くあると思います。
ただ、建物の健康維持において重要な役割を担う屋根のメンテナンスは必須であるため、今回紹介した情報は、家を増改築する時点で多少なりとも知っていると得する情報なことは確かです。
兎にも角にも、本記事を最後までお読みいただきありがとうございました。